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第4話「暗闇の過去」

 

 アルマンシアの村に足を踏み入れたタライム達は、今夜の宿泊先となるユリの家に挨拶へと向かった。

「うちのダンが迷惑をかけたようで、申し訳ない」

 ユリから事情を聞いた父親らしき男が頭を下げる。

「気にしないでくれ。もう終わったことだ」

 タライムは軽く会釈して父親の謝罪を受け流した。

「それより、俺達を泊めちまって大丈夫か?」

 そう言いながら、タライムは気付かれぬよう、さりげなく周囲に目を走らせる。ダン以外にも、自分達を歓迎していない村人が多く存在するのが空気から伝わってきた。

「気を悪くしたなら申し訳ない。何しろ、ここ最近はコルムに住む人達と争いが絶えないもので。昔はこんなことはなかったのですが……」

「皆、悪気はないのです。分かってあげてください」

 隣にいたユリの母親らしき人物も申し訳なさそうな表情を浮かべる。

「いや、俺達は大丈夫だ。ただ、あんた達が俺達を泊めちまったことで立場が悪くなるんじゃないかと思ってな」

「大丈夫です。困っている旅人を見捨てる方が、本来責められるべきことですから。何もないところですが、ゆっくりしていってください」

 タライムの言葉に、父親の方がにこやかにそう答えた。

「すまないな」

「お世話になります」

 レオナが丁寧に頭を下げる。タライムもすかさずレオナに頭を押さえつけられた。

「それじゃユリ、夕飯の支度を手伝って」

「は〜い」

 母親の言葉に従い、ユリが家の中へと消えていく。

「ダン、風呂を沸かす薪が足らんから、取ってきてくれないか?」

「了解した」

 ダンも父親の言葉に従い、すたすたと森の中に姿を消した。

「私達も手伝いましょう!」

 その様子を見たレオナがそう提案する。

「そうだな。んじゃ、俺はダンの方を手伝うから、レオナはユリの方を頼む」

 二人は互いに頷き合うと、それぞれ持ち場へと散っていった。

 

 

 森に入って数分、タライムはせっせと薪を集めるダンの姿を発見した。

「よう、手伝うぜ」

 タライムが後ろから声をかける。だが、ダンは何事もなかったかのように黙々と薪集めを続けていた。

「シカトかよ……」

 タライムが嫌味を込めてそうため息を漏らすが、ダンは相変わらず黙々と薪を集め続けている。タライムも仕方なく無言のまま薪を集め始めた。

 そのまま三十分も経つと、互いの手に両手一杯もある薪が集まる。これだけあれば十分だろうと考えたタライムは、集めた薪を丁寧に地面に置くと、近くにあった切り株に腰掛けた。

「ダン、ちょっと話いいか?」

 両手に薪を抱えたダンに声をかける。ダンは不機嫌そうな顔でタライムの方に振り向いた。

「さっきから何だ?」

「ちっと聞きたいことがある。まぁ、そこ座れや」

 タライムが近くにあった切り株を指差す。ダンは一瞬どうすべきか迷ったようだったが、やがて渋々といった感じで指示された切り株に腰掛けた。

「何だ? くだらない用だったらすぐに帰る」

「まぁ、そう言うな。俺にとっては全然くだらない用じゃない」

 タライムはそう言うと、先程までとはうって変わって真剣な眼差しでダンを見つめた。

「ダン。あのエレメンタルの召還術を、どこで身に付けた?」

 

 

 同じ頃、ユリの家の台所ではユリとレオナが食材の準備をしていた。

「ユリちゃんはこの村の生まれ?」

「はい。生まれも育ちもこの村です。レオナさんはコルムの生まれですよね?」

「そうだよ」

「タライムさんもコルムの生まれですよね? 二人の関係は? どうやって出会ったんですか?」

 ユリが興味深々といった感じで目を輝かせる。レオナは苦笑いを浮かべながら答えた。

「関係は……旅のパートナーって感じかな? 出会いは話すと長くなるんだけど、私が悪い奴に捕まって遠くに売られそうになっていたところをタライムさんが助けてくれたの」

「へぇ……正義の味方って感じですね! いいなぁ、私もそんなロマンティックな出会いをしたいなぁ……」

 ユリが何を想像したのかうっとりと目を細める。

(まぁ、実際は正義の味方どころか軽薄な浮気性だけど……)

 ユリの乙女心を傷つけないよう、レオナはその次に続く言葉の心の中に封印した。

「この村にはユリちゃんのハートを射止められるような男の子はいないのかな?」

「いないですね。というか、同年代の男の子はダンくらいしかいないので」

 ユリがそう言って深いため息をつく。

「そっかぁ……ダン君は弟だもんね」

「まぁ、弟といっても血は繋がってないですけど」

「え? そうなの?」

 ユリの予想外の言葉に、レオナは思わず聞き返した。

「今から一年くらい前の朝、私が海辺に散歩にいったときに、海辺で倒れている男の子を見つけたんです。急いで村に運んだので命に別状はなかったんですけど、意識を取り戻したダンは、記憶を失っていたんです。自分の名前さえも。ダンって名前は私がつけたんですよ」

 ユリがどこか思いつめたような顔で話すのを、レオナは黙って聞いていた。一年前に記憶喪失で発見された男の子。もしかしたら、これは重要な手がかりになるかもしれない。

「レオナさん!」

 その時突然、ユリが何かを決意したかのようにレオナの方を向いた。

「え? な、何?」

「あの、ダンをコルムに連れて行って上げてくれませんか?」

「ダン君をコルムに?」

「はい。ダン、一年経っても全然記憶が戻らないんです。もしかしたら、コルムの人間だったのかもしれない。コルムに行けば、何か記憶が戻るかも……お願いします!」

 ユリがレオナに勢いよく頭を下げる。レオナはどう答えるべきか、考えを巡らせた。重要な手掛かりになる可能性がある以上、コルムに連れて行く意義はある。しかし、ダンにとってこの村が大事なのはレオナにもよく分かった。彼にとって、記憶が戻ることはそれほど重要なことだろうか。今の生活を捨ててまで、記憶を取り戻すための旅に出る必要があるのか。何も知らないコルム大陸を、記憶喪失の少年に一人で旅させるのは酷であるようにレオナには思えた。

「……ユリちゃんの気持ちはわかった。タライムさんとも相談するから、少し考えさせて」

「はい、よろしくお願いします」

 レオナの言葉に、ユリが安心したように笑顔を浮かべる。二人はそこで会話を終えると、黙々と食材の準備を進めた。

 

 

「つまり、お前は記憶喪失で、何であのエレメンタルを使えるかはわからないと」

「そうだ。使い方は覚えていたが、何故使えるようになったかは覚えていない。というより、俺のエレメンタルが珍しいということ自体、貴様の話を聞いて初めて知った」

 そこまで話すと、ダンはすくっと切り株から立ち上がった。

「無駄な時間をかけた。さっさと戻るぞ」

 ダンが先頭に立ってさっさと歩き始める。タライムも後を追って切り株から立ち上がった。

(一年前……丁度レバンが行方不明になった爆発事故の時期とかぶる。記憶喪失のサマナー……こいつが事故に何らかのかたちで関わっていた可能性も……)

 タライムが頭の中で情報を整理し、いくつかの可能性を考慮する。だが、現時点では全て憶測に過ぎなかった。

(とにかく、もう少し様子を見よう。情報もまだ不十分だ)

 タライムはとりあえず今後の方針を決めると、真っ暗になった森の中を村に向かって突き進んだ。

 

第4話 終