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第19話「通行証」

 

 レインとカリオンが遺跡についたのは、日も落ち始めた夕刻のことだった。二人の目の前には、5メートル以上はあろうかという巨大な石造りの門がそびえ立っている。辺りに人影はなく、不気味なほどの静寂。時折、風が木々をゆらす音が聞こえてくるだけだ。

 イブリースの手紙には、この遺跡に何らかの危険が潜んでいる可能性があるとのことだったが、その情報がなくても、見た目だけで危険そうだった。

「ここでいいのか?」

 そんな雰囲気に似つかわしくない間の抜けた声で、カリオンが尋ねる。

「そ、そうだと思うけど……」

「じゃあ、入ろうぜ。暗くなっちまうぞ」

 そう言って、カリオンがさっさと門を開けようとする。レインは思わずカリオンの服の袖を掴んだ。

「何だよ?」

「いや、まだ心の準備が……」

「んなこと知るかっての」

 巨大な扉を両腕で力一杯押し込む。すると、重たい音を響かせて扉が左右に開いた。

「さぁ、行くぞ!」

 カリオンが勇んで中に足を踏み入れる。

「ま、待って!」

 レインが慌ててカリオンの背中を追う。だが、中に入るや否や、突然カリオンはぴたりと立ち止まった。慌てていたレインはとっさに反応できず、小さな悲鳴をあげてカリオンの背中に激突してしまった。

「ちょっと、急に立ち止まらないでよ」

 レインがぶつけてしまったおでこをさすりながら抗議する。しかし、カリオンはその抗議を無視して尋ねた。

「何者だ? あんた」

 レインがカリオンの背後からひょっこりと顔を出す。二人の前には、穏やかな笑顔を浮かべた白髪の老人が立っていた。

「ラムダイル遺跡へようこそ、お若いお二人」

 老人がうやうやしく頭を下げる。レインも思わずつられて頭を下げた。

「俺達、この遺跡に入りたいんだけど。どいてくれないか?」

「もちろんです。ですが、その前に通行証を見せて頂きませんと……」

『通行証?』

 二人が同時に首をかしげる。

「そうです。この遺跡は大富豪ロイガー様の私有地となっております。そのため、通行証を持つ人しか入ることを許されないのです」

 老人は穏やかな笑顔を浮かべたままそう言った。

「それ、どこで手に入るわけ?」

「ロイガー様の知人であれば頂けるはずですが、お二人は……」

 二人が同時に首を横に振る。

「そうですか。ならば、お買い上げいただくしかありませんね」

「見物料みたいなもんか。で、いくら?」

「はい。1000万karzになります」

『1000万!?』

 二人はまたも同時に叫んだ。

カ…カリオン君……持ってる?」

「あるわけねぇだろ……」

 二人がひそひそ声で相談する。当然、そんな大金は持っていなかった。

「なぁ、通行証がないと通れないのか?」

「残念ながら、お通しするわけにはまいりません」

「あっそう……」

 カリオンがおもむろに腰の短剣に手をかける。それを見たレインは慌ててその手を掴んだ。

「ちょっ…ちょっと! なにする気!?」

「仕方ねぇだろ。このじいさんをちょいと痛めつけて……」

「だ、だめだよ! そんなこと。このおじいさんに罪はないんだよ!?」

「じゃあ、借金でもするのか? 返すあてあんの?」

「そ、それは……」

「まぁまぁ、落ち着いてください。まだもう一つ、通行証を手に入れる方法があります」

 またもひそひそ声で相談を始める二人に、老人が告げた。

「その方法ってのは?」

「お二人にはぴったりだと思いますよ」

 老人はそれだけ言うと、二人の間を抜けて遺跡の外へと歩き出した。

「こちらへ」

 二人は一度顔を見合わせたが、とりあえず言われたとおりに老人の後をついていく。老人は外に出ると、遺跡の裏側に向かって行った。

「こちらになります」

 遺跡の裏側まで来た老人が足を止める。そこには、巨大な円形のスタジアムが立っていた。遺跡の裏に隠れて、先ほどまでは見えていなかったのだ。だが、問題なのはそのスタジアムの形状だった。誰もが、一度は見たことがある建物……

「コロシアム。別名、コロッセオともいいますかな」

 古代、王が国民への娯楽として作った闘技場。奴隷達が、日夜そこで殺し合いを演じていたという。

「……まさか……」

「そうです。ロイガー様はこのような娯楽が大変好きなお方ですから。このコロシアムで行われる闘技大会で優勝した者には、通行証が与えられるのです」

 コロシアムから聞こえてくる怒号と歓声。どうやら、現在も闘技大会が行われているらしい。

「あなた方は運がいい。今日が決勝で、明日からまた新しい闘技大会が開かれるのです。今日選手登録を済ませれば、明日からの大会に出場できますよ」

「ルールは?」

「武器の使用などは自由です。相手を降参させるか、あるいは殺せば勝利。それだけです。簡単でしょう?」

「殺すって、そんなの……!」

「それなりに腕に自信のある方々がいらっしゃいますから。降参だけではなかなか勝負がつかないのですよ。あなた方も、腕に覚えがあるのでは? その剣がかざりでなければ、ですが」

 老人がカリオンの腰にある短剣をちらりと見る。相変わらず穏やかな笑顔のままだったが、その目は笑っていなかった。

「もちろん、無理強いはいたしません。1000万用意していただければ、安全に通行証を手に入れることもできますから」

 レインが困ったような顔でカリオンを見る。カリオンはしばし考えを巡らせた。

 ALTの給与はそれなりに高く、借金をしても将来返せる見込みがないわけではなかった。それに、ティアに事情を話せば融資してもらえる可能性もある。だが、どちらにしても一度引き返さなければならない。レインから聞いた話では、状況はかなり切迫しているようだ。もし、ここでの手がかりが重要な鍵になるとすれば……。

「さぁ、どうなさいます?」

 老人が最後の決断を迫る。答えは、既に決まっていた。

 

第19話 終